~災害で会社を休業するとき、休業手当は必要? 労働基準法から考える判断基準~
前回の記事では、「災害時に社労士ができること」として、
- 労務管理
- 社会保険・労働保険
- 助成金・給付金
- BCP(事業継続計画)
の4つの分野をご紹介いたしました。
今回は、その中から**「労務管理」**について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。
その中でも、経営者の方が特に気になるのではないかと思うのが、
「災害で会社を休業した場合、従業員に休業手当を支払わなければならないの?」
という問題です。
社労士試験の勉強をしていると、「休業手当」という言葉は頻繁に出てきます。
しかし、実際に災害が起こった場合を想像してみると、
「災害なら、休業手当は払わなくてもいいのかな?」
「でも、従業員の生活はどうなるんだろう?」
と、いろいろ疑問が湧いてきます。
今回は、私自身も改めて勉強しながら、災害時の休業手当について整理してみました。
「休業手当は払うべき?」答えは一律ではありません
災害によって会社を休業せざるを得なくなったとき、経営者の方が悩むのが、
「この場合、休業手当を支払わなければならないの?」
ということではないでしょうか。
結論から申し上げると、
「災害だから払わなくていい」とも、「休業したら必ず払う」とも、一概には言えません。
ポイントになるのは、
その休業が「使用者の責に帰すべき事由」によるものなのかどうか
ということです。
ここが、今回の記事の一番大事なところです。
休業手当の基本を確認してみます
まずは、労働基準法第26条の「休業手当」について確認してみましょう。
労働基準法第26条「休業手当」では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない」と定められています。
つまり、会社側の事情によって仕事ができなくなったのに何の補償もないと、従業員の生活へ大きな影響が出てしまうことになります。
そこで、一定の場合には会社に休業手当の支払いを求めることで、働く人の生活を守ろうとしているのです。
では、災害の場合はどうなのでしょうか?
ここからが少し難しいところです。
災害による休業なら、休業手当はどうなる?
災害による休業について考えるときのポイントは、
「使用者の責に帰すべき事由」にあたるかどうか
です。
天災などの不可抗力によって会社を休業せざるを得ない場合には、一定の要件を満たせば、休業手当の支払い義務がないとされています。
その判断では、
- 事業の外部から発生した事故であること
- 事業主が通常の注意を尽くしても避けることのできない事故であること
という点が重要になります。
少し難しい言葉ですよね。
私なりに簡単に言い換えるなら、
「会社としてできることを十分に考えて対応したけれど、それでもどうしても休業せざるを得なかったのか?」
ということが、大きな判断のポイントになるのだと思います。
具体的に考えてみると……
例えば、こんなケースを考えてみます。
休業手当の支払い義務がない可能性があるケース
- 地震によって事業所の建物や設備が大きな被害を受け、営業を続けることができない
- 停電などにより事業継続に必要なライフラインが止まり、代替手段を確保することも難しい
このように、会社として通常求められる対応をしても、災害によって事業を続けることができない場合です。
ただし、実際の判断は被害状況や代替手段の有無などによって異なるため、個別の確認が必要です。
判断が難しいケース
- 交通機関が乱れて一部の従業員が出勤できないが、会社自体は営業できる
- 取引先の被災によって発注が止まっているが、自社の設備には被害がない
このような場合には、
「ほかの従業員で仕事を回せないか?」
「在宅勤務に切り替えられないか?」
「別の仕事をしてもらうことはできないか?」
など、会社として取れる対応があったかどうかも考える必要があります。
つまり、
「災害が起こった」=「休業手当を払わなくていい」
という単純な話ではないのです。
「災害だから一律に免除」ではないことに注意
今回、休業手当について改めて勉強してみて、私自身も「ここは注意しなければいけないな」と感じました。
災害が起きたという事実だけで、自動的に休業手当の支払い義務がなくなるわけではありません。
休業に至った経緯や、会社がどのような対応をしたのかなど、具体的な状況を見ながら判断する必要があります。
ここを間違えてしまうと、後になって、
「なぜ休業手当が支払われなかったの?」
と、従業員とのトラブルにつながってしまう可能性もあります。
「災害だから大丈夫だろう」と自己判断せず、
「このケースはどう考えればいいんだろう?」
と迷ったら、専門家に相談する。
これも大切なことだと思います。
働く側にも知っておいてほしい制度があります
ここまでは、主に経営者側から「休業手当」を考えてきました。
でも、災害によって影響を受けるのは、もちろん働く人も同じです。
そこで、働く方にも知っておいていただきたい制度を2つご紹介します。
未払賃金立替払制度
災害などをきっかけに会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した場合には、一定の要件のもとで「未払賃金立替払制度」を利用できることがあります。
この制度は、未払い賃金の全額ではなく、その一部を国が事業主に代わって立て替えるものです。対象となる事業主、退職時期、未払い賃金の範囲などに条件があります。
「会社が大変な状況だから、もう賃金はあきらめるしかない」
とすぐに思わず、
「利用できる制度はないかな?」
と確認してみることが大切です。
雇用保険にも災害時の特例があります
もう一つ、知っておきたいのが雇用保険の特例です。
災害により事業所が休止・廃止し、労働者が休業して賃金を受けられない場合などには、雇用保険の基本手当について特例措置が設けられることがあります。
ただし、この特例は、災害救助法や激甚災害法の適用状況、事業所の所在地、休業・離職の状況など、一定の条件を満たす場合に利用できるものです。すべての災害時の休業に一律で適用されるわけではありません。
参考:災害時における雇用保険の特例措置等についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134526_00003.html
実際に被災した場合は、最新の情報を確認したうえで、ハローワークに相談することをおすすめします。
経営者が「今から」できる備え
災害は、いつ起こるかわかりません。
だからこそ、
「災害が起きてから考える」のではなく、「起きる前に考えておく」
ことが大切です。
例えば
- 災害時の休業について、就業規則などで考え方を整理しておく
- 従業員への連絡方法を決めておく
- 安否確認の方法を決めておく
- 在宅勤務など、仕事を続けるための方法を検討しておく
など、平時にできることはいろいろあります。
「何か特別なことをしなければ」と考えると、大変そうに感じます。
でも、まずはできることから一つずつ。
小さな備えが、いざというときの安心につながる。
今回、災害時の休業手当について調べながら、そんなことを感じました。
社労士として、こんな相談に寄り添える人になりたい
今回、休業手当について改めて勉強してみて感じたのは、
「法律を知っているだけではなく、それを実際の状況に合わせて一緒に考えることが大切なんだな」
ということでした。
災害が起きたとき、経営者の方は、
「会社をどうやって続ければいい?」
「従業員の生活をどう守ればいい?」
と、たくさんのことを考えなければなりません。
働く人も、
「これから仕事はどうなるの?」
「給料はどうなるの?」
と、不安でいっぱいになると思います。
そんなときに、
「ちょっと社労士さんに相談してみよう」
と思ってもらえる存在になりたいです。
まだまだ勉強中の私ですが、今回の記事を書きながら、そんな思いがますます強くなりました。
まとめ
今回、災害時の「休業手当」について調べてのポイントです。
- 休業手当は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業かどうかが判断のポイント
- 天災などの不可抗力による休業は、一定の要件を満たせば休業手当の支払い義務がない場合がある
- 「災害だから一律に休業手当が不要」というわけではなく、具体的な状況に応じた判断が必要
- 働く人にも、未払賃金立替払制度や雇用保険の特例など、いざというときに利用できる制度がある
- 平時から就業規則や社内の対応方針を整理しておくことが、災害時の安心につながる
制度を知っているだけでなく、
「いざというときに、その制度を思い出せること」
も大切なのだと思います。
私自身も、まだまだ勉強中。
今回の記事を書くことで、私も一つ勉強することができました。
次回は**「社会保険・労働保険についての相談」**について、災害時にはどのような制度や特例があるのか、私も一緒に学びながら解説させていただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


