前回の記事では、「災害時に社労士ができること」の全体像の中から「労務管理」について、災害で会社を休業した場合の「休業手当」を中心に考えてみました。
今回は、その続きとして、
「社会保険・労働保険」
という「保険」の視点から、災害が起きたときに経営者の方や働く方が知っておきたい制度について、私自身も勉強しながら整理してみたいと思います。
災害が起きて、万が一、ケガをしてしまった場合、
「このケガは労災になるの?」
「会社が被災して保険料を払うのが難しいときは、どうしたらいいの?」
など、普段はあまり考えないような疑問が出てくるかもしれません。
こういうときこそ、「知っていること」が安心につながるのだと思います。
「このケガは労災になるの?」災害時の労災保険
勤務中に被災し、その時に転んでケガをした場合、働く方にとって気になるのが、
「これは労災保険の対象になるの?」
ということではないでしょうか。
労災保険は、仕事中や通勤途中に起きた事故などによるケガや病気について、必要な給付を行う制度です。
ただし、災害によってケガをしたからといって、すべてが自動的に労災になるわけではありません。
「仕事との関係があるのか」
「通勤との関係があるのか」
というところが大切になります。
業務中に被災した場合
例えば、勤務時間中に会社で仕事をしているとき、地震や津波などによって建物が倒壊し、ケガをしたとします。
このような場合には、通常、業務災害として労災保険の対象となります。
厚生労働省も、仕事中に地震や津波に遭い、建物の倒壊などによって被災した場合には、通常、業務災害として労災保険給付の対象となるとしています。
「災害だから労災になる」というより、
仕事をしている場所で、業務に関連して被災した
ということがポイントになるのですね。
この点については災害時であるとかないとかは関係ないのです。
通勤途中に被災した場合
では、通勤途中だったらどうでしょうか。
通勤途中に災害に遭ってケガをした場合には、通勤災害として労災保険の対象となることがあります。
ただし、通勤途中であれば何でも対象になるわけではありません。
この点についても災害時であるとかないとかは関係ありません。
通勤経路から大きく外れていたり、私的な用事のために通勤を中断していたりする場合などは、判断が変わることがあります。
ここでも、
「どこで、どんな状況で、何をしていたのか」
を丁寧に確認することが大切なのだと思います。
判断が難しいケースもあります
災害時には、判断が難しくなるケースもあります。
例えば、
- 出張中に被災した
- テレワーク中に被災した
- 移動中に災害に遭った
などです。
こうした場合には、
どこで、何をしていたのか。
業務との関係はどうだったのか。
通勤との関係はどうだったのか。
一つひとつ状況を整理して判断する必要があります。
私も社労士の勉強をしていると、
「法律の条文を覚えるだけではなく、実際の状況に当てはめて考えることが大切なんだな」
と感じることが度々あります。
こうした判断が必要なケースでは、労働基準監督署などに確認しながら進めることも大切です。
「会社が被災した」=「労災」ではありません
ここで、もう一つ覚えておきたいことがあります。
それは、
「事業所が被災したこと」と「労災保険が適用されること」は、全く別の問題
だということです。
例えば、会社が地震で大きな被害を受けたとしても、そこで働く従業員のケガが自動的に労災になるわけではありません。
そのケガが、仕事中だったのか、通勤途中だったのか、業務との関連性があるのかなど、具体的な状況を確認して判断する必要があります。
会社の保険料が払えないときは?
災害によって会社の建物や設備などが大きな被害を受けると、事業そのものが大変な状況になることがあります。
そんなとき、
「社会保険料や労働保険料まで払うのが大変。支払いを待ってもらえないのかな?」
と、経営者の方が不安になることもあると思います。
実は、災害などによって一定の要件に該当する場合には、保険料の納付を猶予する制度があります。
例えば、健康保険・厚生年金保険の保険料については、災害などによって事業所の財産に相当な損害を受け、納付が困難となった場合などに、事業主が申請することで納付の猶予を受けられる場合があります。

また、労働保険料についても、災害を受けた場合の猶予制度があります。申請や相談については、都道府県労働局や労働基準監督署が窓口となります。
つまり、
「払えないから、とりあえず滞納してしまう」
のではなく、
「利用できる制度はないかな?」
と、まず確認することが大切なのですね。
「払えない」と思ったら、早めに相談を
保険料の納付が難しい状況になったとき、
「今はそれどころじゃない」
「とりあえず後回しにしよう」
と思ってしまうかもしれません。
でも、何もせずに納付期限を過ぎてしまうのではなく、早めに相談することが大切です。
日本年金機構も、保険料を納付しないまま納付期限を過ぎると、督促や延滞金につながる場合があるため、早めに管轄の年金事務所へ相談するよう案内しています。
災害時には、普段とは違う特例や支援制度が設けられることもあります。
だからこそ、
「知らなかった」で終わらせないこと。
これが大切なのだと思います。
働く方にも知っておいてほしいこと
ここまでは、主に経営者の方の視点でお話ししてきました。
でも、もちろん働く方にも知っておいてほしいことがあります。
会社が保険料の納付猶予を受けることになった場合、
「自分の健康保険や厚生年金はどうなるの?」
と心配になる方もいると思います。
保険料の納付猶予は、保険料を「払わなくてよい」という免除とは違い、一定期間、納付を猶予する制度です。
そのため、「猶予=従業員の社会保険資格がなくなる」というものではありません。
制度の内容を正しく理解して、必要以上に不安にならないことも大切です。
業務外のケガなら「傷病手当金」という制度も
災害によってケガをして仕事を休むことになった場合でも、そのケガが必ずしも労災になるとは限りません。
例えば、業務外のケガや病気で仕事を休み、一定の要件を満たす場合には、健康保険の「傷病手当金」の対象となることがあります。
一方で、業務上や通勤途中のケガなどは、原則として労災保険の対象となります。
この点についても、災害時であるかないかは関係ないのです。
つまり、
業務・通勤によるものなのか、業務外のものなのか
によって、利用する制度が変わってくるのです。
「労災なのか、健康保険なのか」
ここを整理することも、社労士が相談に乗れる大切な部分なのだと思います。
経営者が今からできる備え
災害が起きてから、
「この制度は使えるの?」
「どこに相談したらいいの?」
と慌てるよりも、平時から少しだけ知っておく。
それだけでも、いざというときの安心感は違うのではないでしょうか。
例えば、
- 労災事故が起きたときの社内連絡方法を決めておく
- 従業員がケガをした場合の相談先を確認しておく
- 社会保険料や労働保険料の猶予制度について知っておく
- 災害時の連絡体制を整えておく
などです。
大きなことを一度に準備しなくても、
「まずは知ることから」
始めてみる。
私自身も、今回この記事を書くことで、改めてそう思いました。
社労士として「困ったときに相談できる人」になりたい
今回、災害時の社会保険・労働保険について調べてみて感じたのは、
「制度を知っていることが、いざというときの安心につながる」
ということです。
災害が起きたときは、経営者の方も働く方も、それだけで大きな不安を抱えることになります。
そんなときに、
「この場合は労災になるの?」
「保険料の支払いはどうしたらいい?」
「利用できる制度はないの?」
といった疑問を、一緒に整理できる人がいたら、少し心強いのではないでしょうか。
私も、そんなふうに、
「困ったときに、ちょっと相談してみよう」
と思ってもらえる社労士になれたらいいなと思っています。
まだまだ勉強中ですが、一つずつ知識を増やしていきたいです。
まとめ
今回、災害時の社会保険・労働保険について調べてみました。
ポイントをまとめると、
- 業務中や通勤途中の被災は、業務・通勤との関連性などを確認したうえで、労災保険の適用が判断される
- 「会社が被災したこと」と「労災保険が適用されること」は別の問題
- 災害などによって一定の要件を満たす場合、健康保険・厚生年金保険や労働保険料の納付猶予制度を利用できる場合がある
- 業務外のケガや病気で仕事を休む場合には、一定の要件のもとで健康保険の傷病手当金を利用できる
- 「払えない」「どうしたらいい?」と思ったら、滞納する前に早めに窓口へ相談することが大切
災害は、いつ起こるかわかりません。
だからこそ、
「知らなかった」ではなく、「そういえば、こんな制度があったな」
と思い出せるようにしておく。
それだけでも、いざというときの安心につながるのではないでしょうか。
私自身も、まだまだ勉強中です。
今回の記事を書くことで、また一つ、災害時に社労士ができることを学ぶことができました。
次回は、4つの分野の3つ目、**「助成金・給付金についての相談」**について、災害時にどのような支援制度があるのか、もう少し詳しく調べてみたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


