「災害時に活用できる雇用調整助成金」〜制度の概要と活用のポイント
これまでの記事では、
①「労務管理についての相談」
②「社会保険・労働保険についての相談」
として、災害時の休業手当や労災保険、保険料の納付猶予などについてお話ししてきました。
今回は、4つの分野の3つ目である、
「助成金・給付金についての相談」
について考えてみたいと思います。
災害によって会社の建物や設備が被害を受けたり、取引先が被災したりすると、事業をこれまでどおり続けることが難しくなる場合があります。
そのようなとき、経営者の方にとって大きな悩みの一つが、
「従業員の雇用を、どのように守っていけばよいのだろうか」
ということではないでしょうか。
今回は、そのような場面で知っておきたい制度の一つである雇用調整助成金について、概要と活用のポイントを整理します。
雇用調整助成金とは
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を解雇せず、休業・教育訓練・出向などによって雇用を維持した場合に、休業手当や賃金等の一部を助成する制度です。
対象となるのは、あくまで「経済上の理由」による事業活動の縮小です。地震や水害などにより、自社の施設・設備が直接被害を受けたこと自体は、原則としてこの「経済上の理由」には当たらず、通常は助成の対象外とされています。
一方で、被災地域の取引先が操業を停止したことによる受注減など、災害による間接的な経済的影響で休業する場合は、対象となり得ます。
ただし、大きな災害の際には、この原則を緩和する特例措置が設けられることがあります。
このシリーズの掲載を始めた時点では特例措置は検討段階でしたが、現在、令和8年熊本地震に伴う特例措置が実施されています。この特例では、通常は対象外とされる施設・設備の直接的な被害による休業であっても、修理業者の手配や部品調達に災害の影響で時間を要するなど、経済上の理由が認められる場合には、助成の対象となります。
制度の内容は災害ごとに異なります。実際に活用を検討する際は、その時点での最新情報を必ず確認してください。
助成金を活用するメリット
前回までにお話ししたとおり、災害により休業する場合、休業手当の支払い義務が生じるケースがあります。
雇用調整助成金を活用することで、休業手当などとして支払った費用の一部について助成を受けられるため、雇用を維持しながら事業を継続・再建するための負担を軽減できます。
「従業員を解雇せずに、何とか事業を立て直したい」と考える経営者の方にとって、有力な選択肢の一つとなる制度です。
活用にあたって知っておきたいポイント
要件の確認が必要であること
助成金には、対象となる事業主や休業などについて、細かな要件が定められています。「災害があったから当然に受給できる」というものではなく、要件を満たしているかどうかを確認する必要があります。
手続きに必要な書類の準備
申請にあたっては、休業の実績や休業手当の支払い状況を示す書類など、複数の書類を準備する必要があります。日頃から労働時間や賃金を適切に記録・管理しておくことが、いざというときの手続きを円滑にします。
申請のタイミング
制度によっては、申請できる期間が定められています。「落ち着いてから申請しよう」と後回しにすると、期限を過ぎてしまうおそれがあります。早めに情報を確認し、準備を進めることが大切です。
経営者が今からできる備え
助成金は、いざというときに初めて調べるのではなく、日頃から「どのような制度があるのか」を知っておくことが大切です。
また、休業の実績や賃金台帳など、申請に必要となる書類を日常的に整えておくことも、円滑な活用につながります。
制度の内容や要件は複雑であり、災害の状況に応じて特例措置が設けられることもあります。実際に活用を検討する段階では、社会保険労務士などの専門家がお役に立つことがありますので、相談しながら進めることをおすすめします。
直近の災害に伴う特例・支援の動き
令和8年熊本地震では、発災日である令和8年7月28日から令和9年1月27日までの間に開始した休業・教育訓練・出向について、雇用調整助成金の特例措置が実施されています。
特例では、生産指標の確認期間が通常の3か月から1か月へ短縮されたほか、計画届の事後提出が認められるなど、迅速な利用を後押しする措置が設けられています。
また、熊本県内の事業所には、残業相殺のルールの撤廃など、追加の特例措置もあります。
さらに、令和8年8月に発生した千葉豪雨・台風第25号に関しても、千葉県は、被災して事業活動を縮小し、休業などを余儀なくされた事業主について、一定の要件を満たす場合には雇用調整助成金を活用できると案内しています。
災害救助法が適用された区域の事業所が災害により直接被害を受け、従業員を一時的に離職させる場合には、雇用保険の基本手当を受給できる特別措置が設けられることもあります。
このように、利用できる制度や取扱いは、災害の種類、被害の状況、事業所の所在地によって異なります。自社が対象となるかを確認するため、事業所を管轄する労働局・ハローワーク、または自治体や厚生労働省の案内を確認することが大切です。
まとめ
- 雇用調整助成金は、事業活動の縮小時に雇用を維持する事業主を支援する制度
- 施設・設備の直接被害による休業は原則として対象外だが、間接的な経済的影響による休業は対象となり得る
- 大きな災害の際には、この原則を緩和する特例措置が設けられることがある
- 千葉豪雨・台風第25号でも、一定の要件を満たす事業主に対する雇用調整助成金の案内が行われている
- 特例の内容・対象地域・実施期間は災害ごとに異なるため、最新情報の確認が欠かせない
- 要件の確認、書類の準備、申請タイミングの3点が活用のポイント
- 日頃からの記録管理と、専門家への早めの相談が、いざというときの安心につながる
ここまで3回にわたり、「災害時に社労士ができること」をテーマに、休業手当、労災・社会保険、雇用調整助成金についてご紹介してきました。
次回はシリーズの最後として、事業継続計画(BCP)の整備について、労務面からできる備えをお話ししたいと思います。
私自身も、まだまだ勉強中ですが、今回の記事を書くことで、また一つ、災害時に社労士ができることを学ぶことができました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


